トヨタコネクティッド20周年企画連載 虹を架ける仲間達

第5章 モビリティサービスの展開

MaaS事業分野への参入

前項では「トヨタのコネクティッド戦略」の第三の矢として、MSPFの誕生の舞台裏を紹介してきた。しかし、この舞台裏にはもう一つのストーリーがある。それは、SKB(スマートキーボックス)やTrans Log(トランスログ)という新開発のデバイスによってもたらされた。この二つの新兵器は、トヨタコネクティッドのビジネスをコネクティッドからMaaSへと大きく拡大させる可能性を秘めていた。

カーシェアリングの雄・ゲットアラウンドへのアプローチ

近年、注目されているカーシェアリング。これはレンタカーと同じくクルマを所有するのではなく、必要な時に借用するサービスである。レンタカーとの大きな違いは、会員制で運用されていること。短時間の利用を想定しており、10分とか1時間単位で借りられる。そして短時間の利用であればレンタカーより利用料金が安くて済む。受付や返却、カギの受け渡しは無人化されているので、24時間利用可能。などが大きな違いといえる。ユーザーはカーシェアサービスの会員登録と決済用クレジットカードの登録をおこなう。そして、スマートフォンやパソコンからWEBサイトにアクセスして、空いているクルマを探し、希望の利用時間帯を予約して利用する。会社の会議室の予約管理システムのようなものだと思えばいい。希望するクルマが空いていれば即時、利用することができる。日本ではカーシェア会社がクルマを所有し、会員に貸し出す、B to C型のビジネスモデルが普及している。

Getaround社のガレージでは、サービスの向上につながる改善活動が日々おこなわれた。
Getaround社のガレージでは、サービスの向上につながる改善活動が日々おこなわれた。

これに対して米国のゲットアラウンド(Getaround 以下、G社)のカーシェアサービスはP2Pシェアリングサービスと呼ばれる、個人間でクルマの貸し借り(カーシェア)をおこなう会員制のサービスである。クルマ版エア・ビーアンドビーといえばわかりやすいかもしれない。クルマはG社が所有するのではなく、個人が所有するクルマを会員間でシェアする。クルマの所有者はG社のサービスに自分のクルマを登録しておくと、クルマを使わない日や時間帯に、ガレージに置いてあるクルマを他人に貸し出すことができる。それによって、所有者は利用料が収入として得られる。利用料は所有者が自分で決定できる。ユーザーは1時間5ドルからの安い料金でクルマを借りることができる。ユーザーはスマートフォンのアプリなどで近くのクルマを探し、貸出希望のリクエストを送る。リクエストを受けた所有者は利用者のプロフィールやレビューを見て、貸し出しの判断をする。ユーザーは利用料をクレジットカードでG社に払い、手数料を差し引いた金額が所有者に支払われる。G社はこうした個人間の貸し借りができる場(マーケット・プレイス)を提供しているカーシェア会社である。もし、資金に余裕があれば、複数台のクルマを購入し、それをG社のマーケット・プレイスに登録すれば即時にミニレンタカー会社ができる。G社はそんなP2Pシェアリングサービスのプラットフォーマーなのである。G社は2011年からサンフランシスコを中心にこの事業を展開していたが、その4年後に新たな資金調達をおこない、あっという間に、全米140都市にサービスを展開していた。
トヨタがこれから挑戦するモビリティサービスの領域はこうしたビジネスアイディアとソフトウエア開発だけで、たちまちスタートアップ企業が数百億円単位の資金を調達し、スターダムに押し上げられる。そんなスピードが早く、競争の激しいフィールドなのである。その挑戦にあたり、2016年当時、何度も単身、渡米し、カーシェアリングやライドシェアなど新しいモビリティサービスの分野で急成長している会社をリサーチの目的で見学して回っていた中野雅宏は、その中で特にG社に強く興味を持った。そして、G社とカーシェアリングの分野で提携をすべく、接触を継続していた。
中野としては提携の話を持ち出すにあたり、まずは相手に提携のメリットを感じてもらわないといけないと思っていた。そこで、「何か、G社が喜んでくれることをトヨタとしてできないか?」ということを彼なりに必死で考え、そのネタを探していた。G社は世界中の投資家が注目するモテモテの企業。提携や出資話なんてごまんと寄せられている。だから「トヨタと組めば、こんなことが実現できるんだ」ということを先にG社に示したかったのである。ただし、中野はエンジニアではないし、ベンチャービジネスの経験があるわけでもない。

SKBの開発

困った中野は、サンフランシスコから電話で今やトヨタコネクティッドの技術の親方ともいわれている藤原に相談した。「とりあえず、オペレーションを全部、動画にとって送ってこい。それを観てやる。観てみなきゃわからん」と藤原の指示を受け、中野はすぐに、G社のユーザーがクルマをピックアップするシーンや返却するシーンなどを撮影して、藤原に送った。これを観た藤原は開口一番「クルマのキーがシートに裸で置いてある。これ大丈夫なのか?」と一発でG社のオペレーションの課題に気がつく。さすがは改善マンからの叩き上げである。「こんなところにキーを置いていたら、ドアのガラスを割られて、クルマが盗まれるぞ!」。中野がG社に確認すると、やはり藤原が指摘した通り、そうした事件は何度も起きていた。G社のオペレーションはスマートフォンでドアロックを解錠し、そしてクルマに乗り込んで、シートにあるスマートキーでエンジンをかけるというオペレーションを採用していた。このスマートフォンでドアロックの施錠・解錠ができることがG社のサービスの特徴でウリの一つだった。しかし、藤原はそこにも課題を見つけた。「なぜ、スマートフォンの操作をしてからドアが開くまでそんなに時間がかかってるんだ?」と疑問を中野にぶつけた。「スマートフォンからSMSをセンターに送信しているんです。そうするとセンターから信号が送られてきて、ドアが開くみたいです。3G回線を使ってやりとりしてるんで、タイムラグがあるみたいです。時々、解錠されるまで1時間くらい待つこともあるみたいです」「なんじゃ、そりゃ。それじゃあ、タイムシェアリングなんていえんのじゃないか?」「まあ、米国の通信事情ってこんなもんですよ」。さらに藤原が気になったのは、ドアロックを開け閉めする装置の設置の仕方だった。「そんな大きな弁当箱みたいなものを無理やり愛車に付けられてオーナーはそれでいいのかなあ?いくらクルマを貸し出すためとはいえ、クルマをそんな風に傷つけては、クルマがかわいそうだ」と藤原は思った。
「よし、わかった。それ、なんとかする方法を考えてみる」。藤原はそう告げて、電話を切った。この時、藤原には、トヨタコネクティッドの新たな売りモノになるであろう、SKBのアイディアがひらめいていた。
藤原が考えたSKBというのは、車両のスマートキーをスマートフォンでコントロールする仕組みである。

最初は「部活動」として開発をスタート

2016年1月、トヨタコネクティッドでSKBの開発がスタートした。といっても、まだ正式なプロジェクトになるまでは至っていない。まずは藤原の個人的な「部活動」。「藤原部会」という名のサークル活動として開発をスタートしている。だから、メンバーも正式にアサインされた者は一人もいない。藤原は昔からよく知っているメンバーでなんとなくこうした開発に強そうな人間に片っ端から声をかけ、メンバーを募った。オフィスの廊下で藤原に声をかけられ、延々とその構想を聞かされ、口説かれた人間がメンバーとなった。当然、目一杯の通常業務があるメンバーばかりなので、余程、この開発に興味を持った人間か、お人好しの人間に限られた。
この開発は藤原が描いた一枚のポンチ絵から始まった。「こんなのを作りたいんだ」。
みんなその絵を見て、画期的なアイディアだと思った。「でも、こんな時はどうなるのですか?」「こういうセキュリティのリスクがありますよね?」「こうすれば、リスクは減るけど、使い勝手が悪くなる」「コストも大事だよね」。メンバーからは、いろんな意見が活発に出た。部活動はなかなか楽しかった。そして、SKBの開発にはどうしてもトヨタ車のスマートキーの暗号化技術が必要だった。そのため、スマートキーの開発と製造を担当している東海理化をこの部活動(プロジェクト)に巻き込んだ。どのように同社を説得したのかは定かでない。
メンバーはなんとか通常業務の空き時間を作って東海理化のオフィスに集合し、開発を進めた。最初の2ヶ月間は主にセキュリティ対策の議論を重ね、それが終わると一気に号口に向かって開発が加速。結局、4ヶ月程度で試作品の開発にこぎつけた。
できあがったSKBの試作品は早速、サンフランシスコのG社に持ち込まれた。G車のメンバーはそれを見て、びっくりした。「すごい!」。なぜなら、G社はスマートフォンでドアロックの開け閉めをする機能を独自で開発していたが、その開発には膨大な時間と開発コストを費やしてきたからだ。「なんでこんな短期間でこんなすごいものが開発できるんだ!」「素晴らしい、完璧だ」。彼らは自分たちの手で開発してきたからこそ、SKBがいかに優れているかが瞬時に理解できた。「これがわずか500ドルで取り付けられるのか?」「しかもトヨタの純正部品とは!」「画期的だ!」。そこからG社と共同で、スマートフォンに有効期限つきのパスワードを発給するシステムやスマートフォンのアプリ開発がスタートする。そして、トヨタとゲットアラウンドは2016年10月3日にモビリティサービス領域での協業を発表。翌年の2017年1月から実際にSKBをクルマに取り付けての実証実験が始まった。

MSPF構想をぶち上げる

SKBなどソリューション・ツールが出てきたことを受けて、「これらをWEBサービスと組み合わせ、ゲットアラウンドで開発してきたキーの受け渡しを自動化するSKBのソフトウエアなどをAPIでつなげれば、モビリティサービスのソリューション・プラットフォームができる」と友山は考え、これをMSPF(モビリティ・サービス・プラットフォーム)と名付けた。「MSPFはいわば、クルマと外部の接点であり、クルマとのデータ送受信と、収集された車両データはトヨタが責任を持って、安全かつセキュアに管理します。一方で、一般のサービス事業者、例えばライドシェアやカーシェア会社、また保険会社などは、このMSPFを介して、トヨタやレクサス車にサービスが提供できます」と友山はMSPFを2016年11月1日の「トヨタのコネクティッド戦略」記者発表会の壇上で説明した。
そしてこの構想をベースに同年12月に「グローバル・モビリティ&ファイナンシャルサービス委員会」をトヨタ社内に立ち上げる。同委員会は、コネクティッド保険を提供するTIMS、TFS、TCNA、TMNA(北米トヨタ)、そしてトヨタで構成され、MSPFをベースに今後のモビリティサービスの展開を検討していった。ロサンゼルスのTFSのオフィス内には「OBEYA(大部屋)」が開設され、その後はこのOBEYAがモビリティサービス大作戦の前線に設置された司令部「モビリティサービス参謀本部」の機能をもち、さまざまな戦略を練り、実行していった。
なぜ彼らが参謀本部をロスに開設したかというと、当時の日本にはさまざまな規制があって、実証実験するのも困難だったからである。一例を挙げれば国土交通省は当時、クルマのドアロックの施錠や解錠は自動車メーカーが製造したキーでしか許可していなかった。そのため、スマートフォンではそれはできないという見解であった。つまりSKBは日本国内では取り付けができなかったのである。また、「貨客混載の禁止」というのが道路運送法という法律に明記されていて、例えば、タクシー車両が宅配便の荷物を配達するなんてことをしたら違法で摘発された。最近流行のデリバリーサービスでお弁当の配達をタクシーでおこなっても、もちろんアウトであった。現在ではこうした規制は徐々に緩和されつつある。2019年10月にスマートフォンでの解錠は解禁された。貨客混載についてもタクシーでのお弁当の配達は一部、認められているし、スーパーシティなどの特区を指定して、過疎地などで貨客混載ができるようにはなってきた。しかし、17年の当時はまったくダメだった。そのため、トヨタは日本国内ではなく米国など海外で実証実験を始めたのであった。
ちなみにSKBが日本で利用できるようになった舞台裏では山本圭司が貢献した。山本は国土交通省に粘り強く働きかけをおこない、2019年10月、OKがでた。山本はスマートキーの発明者だったので、開発当初からSKBの発想が面白いといって、全面的にバックアップしてくれたのだった。

ハワイでの実証実験。新規ビジネスの開始

そして、ロスのOBEYAが開設されて間も無く、モビリティサービス参謀本部にはTMNAのレンツ社長を通じて、モビリティサービスに関するある相談が入った。それはハワイ州などがテリトリーのトヨタのディストリビューターServcoサーブコから、傘下の販売店で「新しくカーシェリングサービスのトライをしたい。ついては、そのサービス開発ができないか」という相談だった。これは願ってもない話だった。この案件については、SKBのトライアルプロジェクトとしてTCNAが中心になって推進していくことが決定した。
Servcoがトライしたかったのは販売店の試乗車をハワイの観光客などを対象に有料で貸し出す時間貸のレンタカーサービスだった。お客様の試乗予約がない時間帯は空いている試乗車をレンタカーとして有効利用しようと考えたのである。しかもその受付や決済業務は無人化したかった。このビジネスモデルはレンタカーサービスというより、ゲットアラウンドのカーシェアサービスに限りなく近かった。
この作戦の陣頭指揮はTCNAのトップのザックが担った。ザックたちは、米国内で能力は高いのになかなか成果を出せないでいたスタートアップのプログラマーやシステムエンジニアたちに声をかけ、急しのぎで、このカーシェアサービスの開発チームを結成。アジャイル開発によって、開発開始からわずか2週間という短期間でMVP(Minimum Viable Product)と呼ばれる実用最小限のソフトウエア開発を完成させた。そして素早くこれをリリースして、実証実験をスタートさせた。史上最速の電撃的作戦遂行だった。この早さには友山たちも驚いた。実証実験とはいえ、お客様からはきちんと使用料をいただく、れっきとしたカーシェアビジネスである。「大丈夫か?」とちょっと心配にもなった。
ザックたちはサービスを素早く開始するとともに、お客様の声を聞きながら、必要な機能をどんどん追加し、ブラッシュアップしていった。これがアジャイル開発によるムダがなく、かつお客様のニーズに最適なソフトウエア開発である。そしてアプリケーションはどんどん便利で使いやすく、そしてシンプルなものになっていく。結果、ザックたちTCNAはSKBをベースにトヨタ販売店の試乗車を利用した画期的なビジネスをインキュベートしたのであった。この新しいカーシェアサービスは「Hui(フイ)」と名付けられた。
「Hui(フイ)」は「トヨタの最新の新車がレンタルできる」「しかも、必要な時間だけ、時間単位でレンタルできる」と観光客を中心に大変好評だった。レンタカー大手のハーツやエイビスのクルマはどうしても古いクルマが多く、料金も「Hui(フイ)」より割高だった。利用者の中には実際に乗ってみて、とても良かったのでこのクルマを自家用に購入したいというお客様もいた。お客様から利用料金をいただいた上に、しっかりと新車の試乗車としての役割も果たしたのであった。この「Hui(フイ)」のようにディストリビューターが主導するカーシェアサービスは2020年12月現在、「KINTO Share」のブランドでグローバル展開され、米国、カナダ、プエルトリコ、ブラジル、デンマーク、スペイン、イタリア、アイルランド、豪州、ニュージーランド、台湾のディストリビューターの手によって展開もしくは展開準備中である。

アジア、中国で花開くMaaS事業

SKBと同様に、TransLogもレンタカー会社のフリート管理だけでなく、バスやトラックにつければ運行管理、さらにはテレマティクス保険、そしてライドシェアサービスでは営業管理、ドライバーのマネジメント、そして車両のメンテナンス管理とさまざまなシーンで活用できるソリューション・ツールに発展した。現在、国内ではトヨタレンタカーはもちろん、コンビニチェーンやさまざまな異業種の車両管理サービスに適用されている。
さらに、トヨタコネクティッドのアジア、中国地域におけるMaaS事業展開に大きく貢献している。その事業戦略とは、GrabやDiDiなど既存のMaaSプレーヤーと正面から争うものではない。むしろ、彼らのパートナーとして、MSPFを始めとする情報プラットフォームとそれにつながるトヨタ車を使ってもらうことが、戦略の根底にある。
ここでは、Grabとの連携において彼らが何をしているのかを、簡単に要約してご紹介する。Grabというのはシンガポールに本部がある東南アジアの各国でライドシェアサービスを提供しているユニコーン企業である。ライドシェアというのは平たくいえば、個人が自分のクルマを使ってタクシーのように人を運ぶサービスである。Grabやウーバーはそうした個人ドライバーと契約を結び、配車アプリを通じて、乗客を募り、ピックアップ地点にクルマを配車する。あとはタクシーと同じである。その利便性、明朗会計な仕組みから東南アジアでも近年どんどんシェアを伸ばしているサービスである。ただし東南アジアのライドシェアではドライバーのほとんどが貧困層なのでクルマを持っていないことが多い。そのため、Grabは大量のクルマを自社のアセットとして保有し、それをドライバーに貸し出す形で運営をしている。
そのため、車両管理がGrabにとっては重要な経営課題であり、その分野でトヨタのコネクティッド技術がその課題解決に大きく貢献している。現在、Grabが保有するトヨタ車にはすべてにTransLogがついている。そしてTransLogで集められた車両データと走行データはGrabのドライバーアプリと連携し、前述したようにドライバーの運転スコアとなって一部は保険会社に提供されテレマティクス保険の割引適用に使われる。また一部はドライバーの評価に使われ、運転スコアが高いドライバーにはインセンティブが支給される。ドライバーの事故はどうしても発生する。事故が起きると修理費用の負担も必要だし、その間は休業となるのでその営業機会の損失も大きい。だから事故を減らすことが同社の課題だった。インセンティブを導入後はドライバーの安全運転意識が高まり、飛躍的に事故が減った。これによってもたらされた莫大な利益を原資として、インセンティブは支給されている。

現地トヨタ系販売店と協力し高効率なメンテナンスを実現
現地トヨタ系販売店と協力し高効率なメンテナンスを実現

ライドシェアカーの稼働率を最大化するため、現地トヨタ系販売店と協力し高効率なメンテナンスを実現した。

また、もう一つの貢献はGrabへの「eケア」の提供である。eケアについてはコネクティッド・クラウンの紹介の際に説明したが、車両のCANから収集される車両データを解析して、適切なメンテナンスに関するアドバイスや入庫誘致をおこなう仕組みである。これにより、定期的に必要なタイミングでドライバーに対して、入庫を促し、適切な点検・整備をおこなうことで故障を防いでいる。故障による営業機会の損失もGrabにとっては深刻な経営課題だった。
また、年間走行距離が個人ユーザーの数倍にも達するGrab車両は、その分、年間のメンテナンス頻度も多くなる。そのメンテナンスに時間を取られるようだと稼働率が低下するので、極力短時間で効率的にやらなければならない。そこで登場するのが、野口俊一をリーダーとするトヨタコネクティッドの改善チームである。野口たちは、シンガポールのトヨタディーラーに常駐し、Grab専用ラインを構築し、従来、70分以上かかっていた作業を30分にまで短縮した。
このような取り組みにより、Grab車両におけるトヨタ車のシェアは飛躍的に向上した。その車両のメンテナンスはトヨタ系ディーラーに入庫している。そして、TransLogが装着され、MSPFから、車両管理や保険サービスが提供されている。つまり、車両を生産するトヨタにとっても、また、それを販売しメンテナンスするディーラーにとっても、もちろんそれを利用するGrabやそのドライバーにとっても、win-winの関係を、トヨタコネクティッドが提供しているのである。なお、それと同様のことが中国ではDiDiとの提携により中国全土に拡大しつつある。
テレマティクスから、コネクティッド、そしてMaaSへと、この瞬間にも、彼らのビジネスは変貌し拡大し続けている。次のキーワードは何か…それはやりながら考えればいい、ということは彼ら自身がよく知っているはずだ。

TO BE CONTINUED
20年にわたって繰り広げられてきた、限りなくカスタマーインへの挑戦。
この挑戦に終わりはないのである。

TO BE CONTINUED

著者プロフィール

  • 宮崎 秀敏(みやざき ひでとし)
    ネクスト・ワン代表取締役
    1962年、広島生まれ。1997年リクルートを退職後、ひょんな縁で業務改善支援室の活動に帯同。
    98年、同室の活動をまとめた書籍『ネクスト・ワン』(非売品)を上梓。会員誌の制作やコミュニティの運営などでGAZOO、G-BOOK、e-CRB、GAZOO Mura、GAZOO Racingなどの立ち上げに協力しながら取材活動を継続。